方向性珪素鋼板を用いたトランスのコアは,本来環状で継ぎ目が無いものが理想ですが,
そのままではコイルを巻くのが面倒なため環状で継ぎ目の無いコアをわざわざカットしたり,
2つに分けたシートコアを積層するなどして,予めボビンに巻線されたコイルをコアにはめ込んで
トランスを形成する方法が多く用いられていますトランスの原点に立ち戻ってみると,
その理想の姿である”継ぎ目の無い環状コア”を用いたトランスとして「トロイダルトランス」があげられます。
しかしながらその巻線は,1巻1巻コア内をくぐらせて巻線しなければならず,また,巻線にあたっては
環状コア上に均一に巻線し,巻始めと巻終わりが同じ位置にくるよう巻線ピッチを工夫しなければ
なりません。
そして安全規格対処の難しさと,それ故の作業性の悪さでコストが高く量産には向かないものと
されてきました。
当初,カットコアトランス用のコア(断面は角)をカットせずにボビンを組み付け,この状態のまま
ボビンを回転させて巻線をしましたが,北村機電(株)による曲線スリッター技術と
材料切り抜き方法(特許)によりコア断面が円形に近い”継ぎ目の無い環状コア”「Rコア」の誕生によって,
量産性,信頼性,価格対応等において高品質,低価格なトランス,「Rコアトランス」として多くの方々の
興味と評価を受けるようになり今日にいたっています。 映像,音響機器等の普及に伴い,
リーケージフラックスの問題が大きな課題として取り上げられるようになり,又,多くの機器の要求が
軽・薄・小に向かっている中で「Rコアトランス]を必要とする機器は今後とも増加していくでしょう。
Rコアトランスの誕生
トロイダルトランスの長所を生かし短所を改良したトランスが
Rコアトランスです。
○トロイダルトランスの特徴と問題点
高性能
生産性悪い
○抜き型鉄芯トランス(EI型他)の特徴と問題点
生産性良い
低価格
重量大
発熱大
◎改良点
低リーケージフラックス
生産性の向上 …”高性能・高信頼”
各国安全規格の対処 …Rコアトランスの誕生
過負荷変動への適応
Rコアトランスの現状
1 Rコアトランスは世に出て31年余り,全世界で幅広くご利用頂いております。
2 Rコアトランスの重要な用途
・リーケージフラックス,高周波ノイズを嫌う機器
・映像回路 ・音質を重視した機器
・信号入力回路(特にヘッドを使用したもの)
・精密機器
・薄型構造の機器その他,全ての機器
Rコアトランスの性能
4大特長
@極小リーケージフラックス
A薄型
B軽量
C低損失
−薄型・軽量化について−
☆トランス特性・軽量化・コストは常に相対関係にあります。
[例1] EI型トランスをコイル方向に長くのばした場合
・リーケージフラックスはことごとく悪くなる。
・銅損は極端に大きくなる。
[例2] EI型トランスを鉄心の方向に長くして薄型化すると
・磁路長が大きくなり鉄損が増大する。
・底面積が極端に大きくなる。
[例3] 現状薄型の「Rコアトランス」を更に薄型化した場合
・鉄損は微増するが影響はほとんど無い。
・銅損は大幅に改善される。
故にトランスの特性を犠牲にしない範囲で薄型化した方が
より軽量で,コストが低く,トータルな意味での性能向上と
なるわけです。
−Rコアトランスは温度上昇が少ない−
・従来のトランスは鉄損が大きいため、鉄芯の発熱が大きい。
・Rコアトランスは鉄損が約0.3%で鉄芯からの発熱は非常に少ない。
…トランスの損失の90%は銅損によるものですが、銅は熱を通し
やすいため外気による冷却効果を期待できる。その点Rコアトランスは
巻線部分の表面積が広いためにその効果はより大きいといえる。
−Rコアトランスはうなり振動が小さい−
・従来のトランスは交流波形による「うなり振動音」が大きい。
その大部分は鉄芯の結合部より発生する。
・Rコアトランスは接合部が無いため「うなり振動音」が小さい。
*電源ラインからノイズが進入しますと、うなり音が発生する場合が
有ります。
−突入電流について−
・多くの特長をもった「Rコアトランス」ですが突入電流が大きいという欠点
があります。”継ぎ目の無い環状コア”であるRコアトランスは,その名の通り
磁気的ギャップがなく,また鉄心材として用いている方向性珪素鋼板に,
「Z−8H 」という非常にμ高いものを使用しているため,磁気抵抗,
巻線抵抗が小さくなり電源投入時にトランスが短絡に近い状態となるため,
突入電流が大きくなります。Rコアトランスの場合,突入電流のピーク値は
一次巻線の抵抗値によって決まります
(インダクタンスの影響は無視できる程度)。
したがって,突入電流の大きさが問題となる場合のトランス設計時の注意点
としては、1次側の巻線抵抗値を高くする(巻数を増やす,線径を細くする)
ことで,レギュレーションは悪くなりますが,突入電流は低くすることができます。
(但しより大きなサイズを使用しなければならない事になり,
小型軽量のメリットは少なくなります。)
最大突入電流の測定 最大突入電流を測定によって知るには,電源スイッチの
ON−OFFにより発生する突入電流を測定することで約20回に一回程度の割合
で最大値が観測できますから100回程度スイッチをON−OFFすることで
十分確認できます。
機器側での対策
A)入力電流制限抵抗を用いる
電源投入時は,数オームの抵抗が回路にあり,投入後はその抵抗をショートさせる。
B)ソフトスタートの実施
トラアックを利用して電源投入時,少しづつ入力電圧を上げていくことにより、
突入電流を制限する。
◎ 突入電流の問題は「Rコアトランス」の特性のひとつであるとご理解いただければ
幸いです。
セット側の電流ヒューズは遅延型を使用されることをお勧めします。
Rコアトランスの性能を犠牲にする事の無いようにしたいものです。
−リーケージフラックス(Leakage Flux)について−
リーケージフラックスの発生が少ないという理由
1)Rコアトランスの特長として,1つの電圧を2つのコイルにバランス巻する事により
コイルから発生するリーケージフラックスを互いに打ち消しあうため,トランス外部
にもれる磁束を低く押さえることができます。
2)Rコアトランスの場合、磁路中に磁気的ギャップが全くありません。このギャップに
ついては、EI型の場合は6カ所、OI型、またはカットコアトランスには2〜4カ所あり
このギャップのある箇所がリーケージフラックスの発生源となっています。
3)Rコアトランスは、特性の優れたZ−8H方向性珪素鋼板材の素材特性を十分
活かすよう設計されているので、コアの磁気抵抗は低く、磁路の断面は均一と
なっています。また、EI型に比べて励磁電流が少ないということは、
磁束のうち有効に働く磁束の比率が高い,ということに他ならず、このことも
リーケージフラックスが少ないという理由のひとつです。
リーケージフラックスのEI型との比較
EI型トランスの場合、無負荷時と負荷時ではリーケージフラックスにそれほど
大きな変化が無いのに対して、Rコアトランスの場合、リーケージフラックスは
無負荷時の場合極端に少なく、負荷電流値が増すにつれてその電流値に
ほぼ比例して増加する傾向がある。ただし、負荷時においても、リーケージフラックスの
絶対量はEI型とは比較にならないほど少ない。
リーケージフラックスを少なくするための設計上のポイント
1)1次,2次巻線とも2つのコイルのバランスが非常に重要となります。
・磁束が発生する場所、即ち巻線位置が対称であること
・コイルの巻始め、巻終わり位置を同じにすること
・発生する磁束の量を同一にするためには、2つのコイルの巻数も同じとすることまた、
コア断面積の左右不均一な場合や、巻線の線径が左右で異なる場合も
リーケージフラックス増大の原因となります。
2)励磁A/Tによって与えられた磁束を有効に働かせるには、1次巻線と、
2次巻線のカップリングをよくする必要があります。
1次巻線と,2次巻線のカップリングがよくないと、負荷電流が増加するに従い
リーケージフラックスの増加が顕著になります。
※リーケージフラックスの低減にはRコアトランスを用いれば全て解決する,
ということではありません。
Rコアトランスでは,2つのボビンにバランスよく巻線し,かつ互いの巻線から生じる
磁束を打ち消すような構造とすることでリーケージフラックスを低減していますので、
この点をご理解のうえ、使用のご検討をいただければ幸いです
−その他 設計・製作上のポイント −
音響用途にて大変ご好評を得ていますが、Rコアトランスならば何でも同じとは限りません。
設計磁束密度、巻線のバランス及び配置、両側コイルの結線方法等々、長年の経験と
お客様からのご意見等を参考にして改良しております。
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